帝王切開の基礎知識

日本において帝王切開での分娩は全体の16パーセントほどにのぼり、6人に1人の赤ちゃんが帝王切開により誕生しています。近年、帝王切開での分娩が増加傾向にあるのは、手術の技術が向上してより安全性が確保できるようになってきたことや、赤ちゃんの安全を重視する傾向によるものと考えられます。

 

また、帝王切開は外科手術の中でも安全性が高くお母さんの回復も比較的早い手術です。分娩時のトラブルで医師が訴えられる訴訟の増加などとともに、より安全性の高い帝王切開が選択肢の一つとして大きな位置を占めるようになってきました。ちなみに、帝王切開の割合はアメリカでは3割、ブラジルや韓国では4割に上ります。

 

出産は命がけ、と、日本では昔から言われています。自然分娩での出産の大変さをさしているものですが、帝王切開での出産もまた、お母さんにとってはとても大変です。一つの命を誕生させることに、文字通りお母さんは身を削るのです。それは自然分娩でも帝王切開でもなんら変わらず、母性なしには成し遂げられないものでしょう。

 

帝王切開は、自然分娩が難しいと判断されたときに選択される分娩方法です。その原因は、赤ちゃんにあることもありますしお母さんに生じることもあります。とはいえ、人が一人一人違うように、お母さんのお腹の中に誕生したときから赤ちゃんもそれぞれ自分の人生を抱えています。帝王切開で生まれた、ということは、これから赤ちゃんが生きていく長い年月の中で記憶の中にも残らないことです。

 

若し、自然分娩で産まないことに不安を抱えているお母さんがいたら、もっともっと大切なこと、お母さんが元気でたくさん赤ちゃんをかわいがってあげられるように、今考えたり用意できることはたくさんあります。手術が心配なお母さんはたくさん質問をして、どうかお医者さんを信頼してください。出産の後には、赤ちゃんとの毎日がやってくるのですから。

妊娠の経過の中で自然分娩ができない、あるいは自然分娩をすることで赤ちゃんやお母さんが危険な状態になりうると判断されたとき、帝王切開での出産が選択されます。また、分娩の途中で、そのまま自然分娩を続けては、赤ちゃんやお母さんの命や健康に危険が生ずる恐れが出たときに、急遽、帝王切開に切り替えられることもあります。

 

自然分娩を選べない原因が妊娠中から判明し、帝王切開での出産があらかじめ予定される場合を、「予定帝王切開」といいます。「逆子」「多胎妊娠」「児頭骨盤不均衡」「前置胎盤」「前回帝王切開」「高齢出産」などの理由で、帝王切開が選択されます。自然分娩では赤ちゃんは子宮から産道を通って生まれますが、その通り道が確保されないケースが多く、また、自然分娩にかかる時間が長引いたときの負担があらかじめ大きいと懸念される場合も予定帝王切開となることがあります。

 

分娩の途中で急遽切り替えられる「緊急帝王切開」の原因としては、「胎児機能不全」「常位胎盤早期剥離」「微弱陣痛」「遷延分娩」「回旋異常」などがあります。自然分娩の途中で、赤ちゃんの生命を脅かす事態になったり、出産が長引くことにお母さんの体が持たなくなってしまい、一刻も早く赤ちゃんをお母さんのお腹から取り上げる必要が生じたときに、帝王切開に切り替えられます。

 

誰でも妊娠が確定したときイメージするのは自然分娩でしょう。予定帝王切開のお母さんは、「なぜ、帝王切開なのか」ということや出産に備える準備やその後のおおよその経過、リスクなどの説明をきちんと受けてください。また、緊急帝王切開で赤ちゃんを出産したお母さんも、帝王切開に切り替わった経緯の説明を医師に求めてください。

 

なかなか余裕もなく、気の引けることかもしれませんが、納得のいかない想いを残すことは避けたほうがいいでしょう。その必要性を理解して詳しい説明に時間をかけてくれる医師に会えたら最高ですね。そうすることが、帝王切開での出産を心から肯定できることにつながってくるのです。

予定帝王切開(妊娠中の検査であらかじめ帝王切開が準備されるケース)と緊急帝王切開(分娩中に自然分娩を継続できない理由が生じたときに急遽帝王切開に切り替えられるケース)、それぞれの原因の主だったものをまとめてみました。

 

【予定帝王切開になる原因】

 

● 逆子
通常子宮の中で赤ちゃんの頭は下を向いているが、上を向いている。そのため産道を通ってくるときにへその緒が産道の壁に挟まって酸素が途切れてしまったり、赤ちゃんの首に絡まってしまう危険性がある。

 

● 多胎妊娠
双子や三つ子の場合、妊娠中毒や切迫流産になりやすく、手術時間が短くお母さんや赤ちゃんの体力的な負担が少ない帝王切開を選択。

 

● 児頭骨盤不均衡
赤ちゃんの頭が、お母さんの骨盤より大きくて産道を最後まで通り抜けられない。

 

● 前置胎盤
胎盤が産道の入り口をふさいでしまっている。

 

● 前回帝王切開
すでに帝王切開で出産をしているお母さんだと、子宮の傷跡の皮膚が薄くなっている恐れがあり、出産のいきみによって子宮破裂が懸念される。

 

● 高齢出産 子宮や産道がなかなか十分に伸びにくく、赤ちゃんが降りてくるのが難しい。

 

 

【緊急帝王切開になる原因】

 

● 胎児機能不全
分娩中にへその緒が圧迫されて酸素が届かなくなり仮死状態となってしまう。

 

● 常位胎盤早期剥離
赤ちゃんの出生前に胎盤がはがれて子宮の中で大出血が起こる。緊急に赤ちゃんを取り上げる必要性がある。

 

● 微弱陣痛
子宮の収縮力が弱く、陣痛の時間が長くお母さんが体力を消耗してしまう、陣痛促進剤を打っても陣痛が強くならない。

 

● 遷延分娩
子宮口が堅くて、赤ちゃんが通り抜けられるほどに開かない。

 

● 回旋異常
赤ちゃんは産道を通るとき頭を回しながら出てくるが、それがうまくいかなくて降りてこない。

帝王切開における赤ちゃんの体への負担は、自然分娩に比べるとずっと楽だといえます。自然分娩でお母さんの産道を降りてくるとき、赤ちゃんもまたお母さんとともに必死にがんばらないといけません。命綱であるへその緒が圧迫されてしまうと、酸素が途絶えてしまうような危険も伴います。一方、帝王切開では赤ちゃんは子宮から直接外界へ取り上げられるので、安全性は高く体の負担も小さくて済みます。

 

対してお母さんの体の負担は、比較するのは難しいことですが、自然分娩に勝るとも劣らないくらい大変です。帝王切開は外科の手術ですから、自然分娩のように女性の体に本来備えられている力を発揮するのとは違って、体の外からメスを入れるという、ある意味不自然な行為です。帝王切開で出産したお母さんは、自然分娩で出産したお母さんよりも、かなり長く痛みにさらされることになります。とはいえ、安全性の高い手術ですし、回復は早いので心配はありません。

 

帝王切開における赤ちゃんとお母さんに考えられるリスクはいくつかあります。少数ですが、赤ちゃんに感染や呼吸障害症候群が起こることがあります。また、お母さんには縫合不全による出血や癒着による腸閉塞などの手術後合併症、麻酔に伴う合併症、長くベッドで動けないことから血栓症がおこる恐れがあります。

 

しかし、いずれも適切に対処することによって、大事を避けることができます。また、帝王切開の回数を重ねるにつれこれらのリスクは高くなってしまいます。お産は命がけ、これは自然分娩にも帝王切開にも共通していえることなのです。

予定帝王切開では、陣痛が起こる前で赤ちゃんの成長が確保される37〜38週頃に手術の日を決めます。手術前検査として血液検査や心電図検査などが行われます。母子ともに順調であれば手術前日に入院します。入院に関する説明や、血圧、体重測定、問診、超音波検査などで、お母さんと赤ちゃんの健康状態を確認します。

 

手術当日はお母さんは飲食禁止です。血圧、脈拍などの検査や浣腸で腸の中をきれいにします。点滴を開始します。手術室では手術後しばらくは動けないため導尿の管が差し込まれ、お母さんの体の変化を見逃さないために血圧計や心電図計も取り付けられます。

 

いよいよ手術の開始です。背中から麻酔をかけます。多くの場合、下半身の局所麻酔なのでお母さんは意識がはっきりしていて、赤ちゃんが誕生したらすぐに対面できます。下腹部の皮膚を切開し、子宮に向かって組織の切開が進められます。子宮を切開すると卵膜を破り赤ちゃんを取り上げ、速やかに胎盤も取り出します。皮膚の切開が始まってから、5分から10分という短時間で赤ちゃんとの対面が叶います。

 

そして今度は切開した時と逆に、子宮から皮膚に向かって組織を閉じていきます。体内の縫合は溶ける糸でされるので抜歯が必要ありません。子宮とほかの臓器の癒着を避けるために、ヒアルロン酸でできているシートでカバーすることもあります。お腹の傷も縫合しシールでカバーすると手術の終了です。ここまで、大体30分から1時間です。

 

赤ちゃんは待機している小児科の医師がケアをしてくれます。お母さんはこれから麻酔が切れてくるとともに襲ってくる痛みに向き合わなければなりません。手術の傷の痛みと後陣痛による痛みです。けれど2日もすれば次第に体の回復を実感として感じられるようになります。何しろ赤ちゃんが待っていてくれるのですから、お母さんはいつまでも痛がっているわけにも行きません。点滴が外れ、シャワーが浴びられるようになり、重湯からスタートした食事が普通食となって、授乳もできるようになれば退院です。個人差はありますが手術後、10日前後で退院の日を迎えることができます。

 

病院での日々は、あっという間です。帝王切開で出産したお母さんが、病院で一番大切にしたいのは自分の体の回復です。よほど恵まれた環境にある人を除いて、病院にいるときがお母さんは一番休むことができることでしょう。これからの育児に備えて、眠れるときはぐっすりと眠ることが大切です。

Q. 帝王切開の出産と自然分娩では、赤ちゃんにかかる負担に違いがあるの?

 

A. 自然分娩での出産は、赤ちゃんもとってもがんばらないと生まれてくることはできません。その途中で、トラブルがあると緊急帝王切開に切り替わるのです。帝王切開では赤ちゃんを子宮から直接取り上げるので、赤ちゃんの負担は自然分娩よりずっと少なくなります。その分、お母さんは痛い思いをしますが、元気な赤ちゃんに代わるものは何もありません。また、出産のときの赤ちゃんの頑張りが、その後の赤ちゃんの人生に必要であるとか、そんな影響も考えられません。

 

 

Q. 最初の子が帝王切開だったけど、二人目も帝王切開になるの?

 

A. 1人目の帝王切開の原因によります。帝王切開の原因が取り除かれていれば2人目は自然分娩が可能です。また、子宮の切開は通常横に行いますが、必要性があって縦に行っていた場合も、子宮破裂の危険性が大きいため予定帝王切開になる場合がほとんどです。ただ、1人目に帝王切開で出産している場合、どうしても自然分娩を行うにあたってのリスクは大きくなります。1人目に帝王切開の人は次も帝王切開で、という病院も珍しくはなく、自然分娩の場合でも、少しでも危険があるときは緊急に帝王切開に切り替える、という条件での出産になります。

 

 

Q. 帝王切開は産後がきついと聞いたけど、どうして?

 

A. 帝王切開は手術だからです。後陣痛といって、赤ちゃんが生まれた後子宮が収縮していく痛みがあります。それは自然分娩でも帝王切開でも変わりません。帝王切開はその痛みに加えて、手術の傷口が傷みます。しっかり縫合してありますが、痛みまではすぐにはなくなるわけではありません。しばらくはその痛みにも耐えなければなりません。痛みがあるときは、精神的にも体力的にも人は消耗します。産後はしっかりと体を休めましょう。

 

 

Q. 手術着に着替えるとき、下は全裸って本当?

 

A. 必ずしも100%そうである訳ではありませんが、本当です。実際、手術台の上では多くの場合、全裸になります。感染を防ぐための措置です。しかし、病院によっては手術布で支障のない部分は覆ってくれたりと配慮をしてくれるところもあります。また、事前に病院側に問い合わせをして、希望を伝えておくと対応してもらえる可能性もありますから、まず、聞いてみましょう。

 

 

Q. 帝王切開の麻酔が怖い。本当に大丈夫?

 

A. 絶対に大丈夫です、と保障することはできません。それは、帝王切開に限らず全ての医療行為に対して言えることです。ただ、想定される場面に関して緊急に対処できるように、帝王切開の手術には産婦人科の執刀医だけではなく麻酔科の医師も小児科の医師も待機しています。これから帝王切開の手術に臨むにあたっては、まず、病院を信頼しましょう。そのためには、納得がいくまで医師に説明をしてもらうことも大切です。